産多死から少産少死への転換は、日本、アジアNIEsでは完結し、またASEAN諸国やラテンアメリカ、カリブ海の島々では完結しつつあることは注目に価する。正に「開発は最良のピル」であった。
しかし、それでは、近代化、開発があまり進展していない国々では、出生率低下はほとんどみられないことになる。たとえばサハラ以南のアフリカでは、当分の間とても出生率低下は見込まれないことになる。しかしながら、1960年代後半以後ミシガン大学のフリードマン(Ronald Freedman)等の研究によれば、経済社会開発が必ずしも十分に進展していなくても、もし家族計画を国民の間に普及させようとする強い指導者のリーダーシップがあり、またそれに応じて大規模の、効果的な組織的努力が払われれば、またピルとかIUD、さらにうめ込み式の避妊具といった近代的避妊手段が各地域社会における医療サービスセンター等を通じて簡単に利用できれば、家族計画普及率は増加し、出生率は低下し得ることが明らかとなった。
興味あることは、開発が遅れ、その国の中でも決して豊かな地域とはいえないバングラデシュのマトラブ地域、ケニアのチョゴリア地方で、質の高い医療サービスが提供され、周密な家族計画普及活動が行われた結果、最近顕著な出生率低下がみられることである。この成果は、非常に貧しく、出生率がとても下がりそうもないサハラ以南のアフリカでも、良質の組織的人口教育活動や医療活動が行われれば、出生率が下がり得る可能性があることを示唆している。
国連人口基金によれば、現在世界の途上国には、望まない出産を回避したい、あるいは延期したいと思っていても、避妊の知識がなかったり、あるいは安全・確実・快適そして安価な避妊剤・器具が入手できないために、家族計画を実行していない男女が1億2000万組もいるという。国連人口基金の『世界人口白書1994年』によれば、このような状況をアンメット・ニーズというが、それが充足されれば、途上地域の避妊実行率は、現在の55%(国連人口部の推定は53%)から67%に上昇するであろうと推計する。現在先進地域における避妊実行率は71%であるので、67%という実行率は先進国にかなり近いことを意味している。もしそれが近い将来達成され、高い実行率の水準が継続されれば、やがて途上国の出生率も究極的には先進国に近い人口置き換え水準にまで低下することが予想される。
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